西宮のえびす様は丹後の泣きえびす(三浜)
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■CONTENTS■
舞鶴の伝説


■ 西宮のえびす様は丹後の泣きえびす(三浜) ■
※西宮のえびす様は丹後の泣きえびす

  むかしむかし、今の京都府舞鶴市の三浜というところに幸助さんという人が住んでいました。
この幸助さんは若いころから体が弱く、よくお父さんやお母さんに心配をかけておりました。
でも、漁師になるころには自分の体に気を使うようになり、毎朝健康のため三浜の浜を歩くことにしておりました。

幸助さんがいつもの様に浜をあるいていた、そんなある朝のことです。
三浜の浜は舞鶴湾の中ではなく日本海に面した綺麗な浜で、朝日で砂はキラキラと光っています。
ふと見ると、今から歩いていこうとする先の方に光り輝いている何かを見つけました。
幸助さんは何だろうと近づいて見ると、それはそれはキラキラと光り輝く綺麗なエビス様が、夕べの荒波でうちあげられているではありませんか。

「こりゃあエビス様だ、なかなかりっぱなもんだ」

幸助さんは、話には聞いていましたがエビス様を手にするのは初めてでした。

「これはこれは、もったいないことだ」

幸助さんは両手でやさしく持ち上げ、落とさないようにしっかりと抱くようにして家に急いで帰りました。

「このエビスさんを家にまつってあげるとしよう。」

そう考えて家の中の壁のそばにおいてみましたが、やぶれた壁のところではどうにも様になりません。

「こんなボロ家にまつっていては失礼ではないだろうか?」

そう考えた幸助さんは村の氏神さまのところにおまつりしてあげようと思いつきました。
翌朝早くおきた幸助さんは、エビス様を再び両手でだくようにして三浜の村の氏神さまのところへといそいで行きました

お宮さんにおまつりすると、エビス様は何かしらニコニコと笑っていらっしゃるように感じたので、幸助さんは

「これでいい。これでいい」

と、一人ごとをいいながらエビス様に両手をあわせました。
良い事をした気持とホッとした気持が重なって、幸助さんは気分良く自分の家に帰っていきました。

  それからしばらくしたある日のこと、三浜の村にうらないをしたりする法華経の行者で六部という男がやってきました。
この六部という男はながい距離を歩いてきたので、くたくたにつかれておりました。
着ている白衣も白いところが少ないくらいにうすよごれています。
六部は一晩だけ泊めてもらおうと村の人に頼みましたが、あまりにも薄汚れていて誰も相手にしてくれません。
今晩寝るところもないので、仕方なく氏神さんの社に泊まろうとしてやってきました。
その時に六部は、社のところにキラキラする光を見つけました。

「おや、なんだろう」

よくみると金色にキラキラと光る綺麗なエビス様です。

「これはたいそう良いものだ。しかしここでは似合わないなあ」

あたりを見わたしましたが、誰もいる気配はありません。

六部はそのエビス様をそっと取り上げ、背おっていた廚子の中に入れてしまいました。
今晩はこの社で寝るつもりでしたが、良い物が手に入ったので早く三浜の村を離れようと、やってきた峠道を逃げるようにいそいで歩きました。

随分といそいで歩いたおかげで三浜の村から離れた峠の頂上までやってきました。立ち止まってドキドキしながら振り返ってみても追ってくる人の気配はありません。
でも六部はフウフウと息を切らしながらも、できるだけ三浜からはなれようといそいで歩きはじめました。

その時です

「丹後へかえりたいよぅ、三浜へかえりたいたいよぅ」

と、どこからか小さい声がきこえました。その声を聞いた六部はビックリして振り返りましたが、近くにはだれもいません。
気持が悪いので、さらに急いで歩いていると下りの道に出ました。
下り坂のおかげで歩くのが少しらくになったので、六部はゆっくりと歩きました。

その時にまた、

「丹後にかえりたいよぅ、三浜へかえりたいよぅ」

と小さい声だけれどどこからか聞こえました。

「このあたりは、キツネがよくでるそうだからなぁ」

そうつぶやいて再び早足で歩きはじめました。くだり坂なので自然に足が早くなります。

そしてまた

「丹後へかえりたいよぅ、三浜にかえりたいよぅ」

という声が聞こえたので

「ウォ〜ッ、わしは善人だぞ〜っ」

といいながら走るように歩きました。

だれかのいたずらかな。
まわりはくらやみで誰もいない。
そうしているうちに平という土地までやってきました。ここからは海辺の山ぞいに歩く道です。しかし疲れてきたけれども休もうという気がしなかったのでさらに歩きました。

「丹後へかえりたいよぅ、三浜へかえりたいよぅ」

しだいに背中からの声が大きくなっているような気がするが、六部は聞こえないふりをしながらいそいで歩きつづけました。

浜という村をこえ、峠をこえ、少し東の空があかるくなった時に、ようやく田辺の町並のあるところに六部はやってきました。

「丹後へかえりたいよぅ、三浜へかえりたいよぅ」

六部はしばらく立ちどまって耳をすまし、どこから声が聞こえるのか確かめることにしました。

「三浜へかえりたいよぅ」

どうも背おっている厨子の中から声がするので厨子を背中からおろして、厨子の中をそ〜っとのぞいてみました。

なんということでしょう。厨子の中で三浜から盗んできたエビス様が

「ウエ〜ン、ウエ〜ン」と泣いてます。

これはとんでもないものを盗んでしまったと六部は困ってしまい、泣いているエビス様を泣きやまそうとしましたが泣きやんでくれません。

「おいおいエビス様、ええかげんに泣きやんでくださいまし」

いまさら三浜に連れて帰っても、エビス様を盗んだ盗人は私ですというようなものだ。

すこしの間いろいろと考えた六部でしたが

「え〜い歩け、歩け!」

と、泣いているエビス様を背負って再び南の方に向かって歩きだしました。
山超えて谷を超え歩いている途中も

「丹後にかえりたい、三浜へかえりたい」

と、ずっと背中から声はしています。

泣きつづけるエビス様を背負ったまま三日間も休まずに歩き続けて、ようやく浪速の西宮というところまでやってきた六部でしたが

「とんでもないものを盗んできてしまったものだ。この金色のエビス様を浪速で高く売るつもりだったのに、こんな泣きエビスでは誰も買ってくれないだろう」

と仕方なく近くにあった神社にこっそりと納めました。
泣きエビスを納めてホッとはしましたが、本当にあほらしいことだったとくやしくて仕方がありませんでした。

六部は悔しさのあまり、

「泣きエビス、丹後のエビス。泣きエビス、丹後のエビスさようなら」

と歌うように何度も言いながら歩いてどこかへ行ってしまいました。
この時の六部の歌声を聞いたという人が居てたそうです。

その後も

「丹後のエビス、泣きエビス」

と六部は口ぐせのように、いろんな地方へ行っても歌っていたので、その歌がすこしづつ変化して今では

「泣き虫○○○、お前の母ちゃん○○○」

という歌になっているというお話でした。

おわり


※このお話の中のエビス様をまつってあるお宮さんというのが、御利益のあるといって多くの商人がおまいりするという、今では世に知られた西宮エビス神社だという事です。

※六部とは
法華経の行者で、日本国中の国分寺や一の宮を巡拝した者の事。
江戸時代には背中に厨子という箱を背負い、鈴などを鳴らしながら各家庭をまわって米などを分けて貰っていた。
◇書き写した法華経を日本の六十六か国の霊場に各一部ずつ納めたことから六部と呼ばれていました。


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