くいち郎(小倉)
むかしむかしのお話です。
ある春の日のこと。
たいそう立派なカゴが小倉の村にやってきました。
カゴの中には殿様が乗っており、お寺に行く途中じゃった。
殿様がカゴの中から見ると、男が牛も使わずに一人で田をすいておった。
田をすいておった男に殿様の家来が尋ねました。
「この谷にある寺に行くにはどう行ったらよいか教えてくれんか?」
男は使っておったスキをひょいと片手で持ち上げ、寺の方を指して言った。
「寺はあっちです、あっちに行きなされ。」
その様子に殿様と家来はビックリ仰天。
なぜかというと、スキという物は牛にひかせて田をすく道具で凄く重たい道具です。
そんな道具を片手でひょいと持ち上げたものだからビックリするのも当たり前。
驚いた殿様は尋ねました。
「おぬし、名はなんと言う?」
「おぬしはどれだけの力があるのじゃ?」
男は答えました。
「くいち郎と申します。」
「二人でかついできた殿様が乗ってきたカゴなら一人で楽にかつげます。」
そういって棒の片方に大きな石をくくり付け、反対側には殿様が乗ったカゴをくくり付け、ひょいと肩にかつぐとノッシノッシと歩き出しました。
少し歩いたところに大きな川があり橋が架かっておりました。
くいち郎は橋の真ん中を歩いておりますが、肩にかついだ石と殿様が乗っているカゴは橋からはみ出しています。
これには殿様も真っ青。
橋を渡りきったところで殿様はカゴから飛び出しましたが、ふと考えが頭をよぎりました。
これだけの力持ちなら何かの役に立つじゃろうで召し抱えてもよいのではないか?
そう思い、くいち郎に殿様は尋ねてみた。
「くいち郎とは変わった名前じゃの?ところでおぬしは一度にどれくらいの飯を食らうのじゃ?」
くいち郎は答えました。
「三升くらいは食べまする。」
さらに殿様が尋ねる
「では、何日くらい食いだめができるのじゃ?」
くいち郎は
「いんや、朝・昼・晩と三升は食べまする。」
殿様は
「くいち郎という名前は大飯食らいの事か。」と納得。
こんな大飯食らいを召し抱えてしまっては、年貢をみんな食われてしまっては大変だ。と、殿様は家来とともに去っていった。
その後、小倉の村では「大飯食らいは損をする」と語り継がれているそうです。
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